
2024年度事業総括
令和6年度は、人材育成事業、技術協力事業、連携促進事業について、コロナ禍の際に培われたバーチャルな手法と対面式を融合した効率的な事業運営を実施することができました。
また、令和4年(2022年)2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、原油価格、天然ガス価格は上昇し、その後は値動きの大きな展開となりましたが、現状は比較的安定しております。しかし原油・天然ガスの殆どを海外からの輸入に頼る日本としては、原油市場、天然ガス市場の安定化は、世界及び日本経済の安定化にとって極めて重要なことです。このような状況において JCCP 事業を通じた産油・ガス国との協力関係の維持・構築は、日本のエネルギー安定供給確保の一翼を担うものとしてこれまで以上に重要なものと認識しているところであります。
カーボンニュートラルへの対応につきましても柔軟かつ機動的な事業運営を行っており、JCCP事業におきましてもカーボンニュートラル関連の事業が活発化しております。
政府のGX(グリーン・トランスフォーメーション)実現に向けた取組みが加速するなか、JCCPはそうした政府の動きに迅速に対応した事業運営が求められるものと認識しております。
43回目を迎えた国際シンポジウムは、「持続可能社会への道を切り拓くエネルギー国際協力‐競争から共創、そして協奏へ」をメインテーマとして、完全な対面開催となりましたが、経済産業省・産油・ガス国・各国駐日大使館・諸官庁・国内外企業・団体等から約270名の方々にご参加をいただきました。
また、「女性のキャリア開発に向けた友好委員会(FCW)」では、UAE、東京で年2回開催することができ、DE&Iの課題解決や女性エンジニアのネットワーク構築についても議論を深めることができたことは大きな成果であると考えます。
各事業の詳細は以下の通りです。
人材育成事業
1. 事業報告
令和6年度は全コースを対面形式の研修コースとして実施しました。直轄受入研修では、レギュラーコースとして、戦略マネジメント・財務マネジメント関連:3コース、人材開発関連:2コース、プロジェクトマネジメント関連:2コース、カーボンニュートラル関連:2コース、石油物流関係:1コース、DX・計装制御関連:3コース、LNG関連技術:1コース、環境:1コース、石油関連技術・メンテナンス関連:4コースの計19コースを開催しました。
今年度の研修は、対面形式の研修となりましたが、オンライン研修で培われた研修インフラとノウハウを有効活用して、事前学習から研修中の情報伝達、そして研修後の事後学習までを統合的に設計して、研修の質を高めることができました。また、参加者同士の交流を促進するためにゲーミフィケーションやワークショップを活用した研修生参加型のプログラムについても昨年の状況を踏まえて改善を重ね、参加者の満足度を更に向上させることが出来ました。さらに3D VR(仮想現場の疑似体験)教材の進化等、
先進のDX技術を活用して研修を高度化させることが出来ました。
次に、中東や東南アジア産油国を対象としたカスタマイズドコースも相手国からの個別の要請に基づき実施しました。令和6年度受入は、サウジアラビア、UAE、オマーン、クウェート、ベトナム、インドネシア、タイ等を対象に11コース(女性管理者向けコースを含む)、専門家派遣はクウェート、UAEを対象に実施しました。
この結果、直轄受入研修362名と企業協力受入研修127名を併せ、参加者489名を研修に受け入れました。 直轄受入研修のコース別実績は、以下2.事業実績にある記事のとおりです。
尚、JCCPが設立された昭和56年(1981年)以来、受け入れた参加者は令和6年度末時点で累積28,054名に達しました。

持続可能エネルギー社会を目指した日本のイノベーション
CPO-3-24
第4回クウェート水素シンポジウム(KPC)

回転機器の信頼性向上

中東(オマーンーサウジ等) リーダーシップ研修及び日本企業との対話
研究者交流事業は、産油・産ガス国と日本が相互に研究者の派遣と受入を行うことにより、将来、石油産業下流分野に活かされる先端技術開発に携わる研究者の育成を狙いとして実施しています。
令和6年度は石油学会委託事業として、アラムコ研究開発センターから1名を日本の研究機関に受入れました。イラク石油省石油研究開発センターからは1名を日本の大学の研究室にオンライン指導の形で受け入れました。両名は、自らの研究テーマについて受入先の指導のもと研究を行い、JCCPにて成果報告会を行ったのちに修了証を授与
されました。キングファハド石油鉱物資源大学から1名の研究者が来日しましたが、直後に体調不良となり、日本での研究を行う前に帰国となりました。
日本の研究者1名をアラムコ研究開発センターに派遣し、現地にて2ヶ月程度研究を実施いたしました。派遣研究者は現地での研究期間中に サウジアラビアのダーランで開催されたChemIndix2024 にて発表を行う機会も得ることができました。
来年度も研究者交流事業を通じて、産油・産ガス国との人的関係強化を図っていきたいと考えております。



技術協力事業
1. 事業報告
産油・産ガス国の石油産業下流分野等が抱える技術的課題の解決を支援するため、基盤整備事業として、わが国の技術・ノウハウの移転及び産油国と共同で技術開発等を実施しています。令和6年度は基盤整備事業として以下3段階に分け、事業課題の抽出(基礎調査事業)として3ケ国2件、事業の実現性の確認(支援化確認事業)として5ケ国8件、産油国側との共同プロジェクト(共同事業)として8ケ国9件をそれぞれの段階で妥当性を確認しながら実施しました。
令和6年度は事業実施協定を1件締結し、署名を取り交し
ました。新たに協定を結んで開始した共同事業は「ゴム植林によるCO2ボランタリークレジット創出に関する方法論策定及び植林計画立案(インドネシア)」です。
ADNOCグループの油濁防除能力強化に向けた共同事業PhaseⅡ(UAE)では、現地にて流出油拡散シミュレーションを用いた図上演習を行い、これまでの活動を総括したラップアップ会議を実施しました。成果物の一つとして、事業を通じて作成した環境脆弱性指標マップをADNOCに贈呈しました。


2. 事業実績
連携促進事業
1. 事業報告
連携促進事業は、各種国際会議、ネットワーク会議などを実施することにより、トップマネジメントとの直接的な対話を行い、情報交流、技術交流及び人的交流の促進強化を目的とする事業です。
【国際シンポジウム】
JCCP国際シンポジウムは、JCCPが設立以来毎年1回開催されており、産油・産ガス国の政府関係機関・国営石油会社などから大臣・次官クラスや経営者等の幹部またはエネルギーの専門家を招聘し、日本の石油関連企業幹部と共に講演を行っています。各リーダー同士による意見交換や情報共有を通じて、我が国の石油・天然ガス供給安定化に向け協力して取組むべき課題等を明らかにするほか、人的交流を通して産油・産ガス国との関係維持・強化の場となっています。
議論のテーマは、毎年、石油・ガス産業を取り巻く環境や状況を鑑みて、その時々に適した内容にフォーカスしています。例えば、人口急増減による需給の変動、環境問題の深刻化、産油国における中核人材の自国民化、シェールオイル・シェールガス革命、原油価格の下落、地政学的問題、環境問題への更なる対応の必要性等、近年では、カーボンニュートラルに向けた持続可能エネルギー、DE& I、DX(デジタルトランスフォーメーション)、SX(サスティナビリティトランスフォーメーション)、AIの活用、技術革新や次世代のリーダーの育成や人的資本経営などがテーマとなっています。
2020年度と2021年度は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受け、国際シンポジウムはリモート形式で開催されました。この期間、対面での交流が難しい状況の中でも、オンライン上での議論や情報交流が継続されました。しかし、2022年度には3年ぶりに対面式とリモート形式を組み合わせたハイブリッド形式での開催が実現しました。この形式は、リモート参加者と対面参加者の両方に対応し、より多くの人々が参加しやすくなりました。そして、2023年度は、海外からの講演者と経済産業省や日本企業の方々が対面でビジネス交流を行う機会を提供するため、対面開催で実施しました。このような形で、国際情勢や参加者のニーズに合わせて柔軟に対応し、さらなる交流と協力の促進を図りながら継続しています。
2024年度(令和6年度)は、第43回JCCP国際シンポジウムを2025年(令和7年) 1月29日に海外講演者を招聘し、会場には関係会社・組織から270名ほどの参加者を受け入れ、完全な対面式で開催しました。7ケ国12名の講演者は、 "持続可能社会への道を切り拓くエネルギー国際協力‐競争から共創、そして協奏へ"のメインテーマのもと、各セッションにおいて、エネルギー分野における協力関係の重要性を再認識し、課題解決のための意見交換や情報共有が行われました。
基調講演では、国内外の政府関係者の間で政策的・経営の立場から中心テーマの「競争から共創、そして協奏へ」についての重要性を強調され、エネルギー戦略や国際協力が議論されました。特別講演では、エネルギー専門家から世界エネルギー市場の展望と石油需要の継続的成長が指摘されました。
セッション1では、「エネルギートランジションにおける新たな経営と人財開発」をテーマに、人材育成と経営にフォーカスし、人的資本経営を軸に据え、リーダー育成、DXを活用した人財戦略、多様な人材の活用が重要視され、具体的な取り組みが紹介されました。 また、ネットゼロ達成に向けた低炭素ビジネスの成長戦略や、女性の活躍推進の必要性についても意見が交わされました。
セッション2では、「移行期のエネルギーソリューション技術」のテーマで、各国の最新の技術開発や具体的な取り組みとして、AIの電力需要増加に対応する次世代地熱開発、e-fuelやCCS/CCUSの実証事業、グリーン水素やe-メタノール技術など、多様なアプローチが紹介されました。
各国の政策や戦略を共有することで、共通の課題が明確になり、技術開発と国際協力の重要性が再認識されました。また、最新技術や具体的な取り組みの紹介を通じて、課題解決に向けた国際協力の必要性が改めて確認されました。
本シンポジウムは、今後もエネルギー分野における国際協力と技術革新を促進し、持続可能な未来への道を切り拓くための重要なプラットフォームとなることを目指します。
詳細はこちらご参照ください。
第43回JCCP国際シンポジウム
セッション1
基調講演、特別講演
セッション2
【OAPECコンファレンス】
令和6年(2024年)6月25、26日の両日にサウジアラビア国リヤドにおいて、サウジアラビアエネルギー省の協力を得て、サウジアラビアエネルギー省 カリッド アルメハイド 副大臣、ナセル アルドッサリー 副大臣及び駐サウジアラビア日本国大使館河原一貴臨時代理大使等のご参列の下、JCCP、OAPECとの共催で第6回コンファレンスを開催しました。
「石油下流工業における炭素排出削減への道筋」をテーマに100名の会場参加、80名のオンライン参加を得ました。
2日間にわたるテクニカル・セッションでは6セッションに分かれて24件の講演が行われました。日本から6人の講師が講演しました。各講演後、参加者との活発な質疑応答が交わされ、参加者から高い関心が寄せられました。
6/25 コンファレンスオープニング
6/25 コンファレンスオープニング
【JCCP-アラムコ共催シンポジウム】
令和6年(2024年)10月3、4日の両日に東京にてアラムコ、JCCPの共催で、「低カーボン社会に向けた挑戦と可能性-技術とイノベーションの役割」と題して、水素、メタノール、アンモニア、樹脂リサイクル等を含め、生産から消費までのエネルギーバリューチェーン全体を包含する形でシンポジウムを開催しました。
5セッション「政策・需要見通し」「持続可能な未来に向けたエネルギーイノベーション」「持続可能なモビリティ転換を目指して」「持続可能なエネルギーの未来に向けたエンジニアリングソリューション」「低炭素社会への道を開く技術的要素」に分かれて最近の見通しや取り組みの紹介が行われ、パネルセッションでは、8名のパネリストが「低炭素社会に向けた政策と技術革新」と題して低炭素社会への挑戦と機会について、幅広い議論を展開しました。
会場にはのべ 430 名を超える参加者が集まり、多くの交流が行われました。

【日本サウジアラビア合同シンポジウム(研究・技術)】
令和7年(2025年)2月10、11日の両日にサウジアラビア王国キングファハド石油鉱物資源大学ダーランテクノバレーにおいて、アラムコ、キングファハド石油鉱物資源大学、石油学会、JCCPの共催で、第33回日本サウジアラビア合同シンポジウム(研究・技術)を開催しました。「燃料および石油化学技術」を統一テーマに持続可能なソリューションの推進を副題として、6セッション(「廃棄物からの石化」、「持続可能なソリューション」、「新規挑戦:プロセス/燃料」、「先進的触媒技術」、「持続可能な化学品」、「CO2回収と転換」)にて20件の講演(うち、日本からは講演5件)と、若手研究者によるポスターセッション30件が行われました。
約170名の方が会場参加して、活発な質疑応答等が交わされました。
なお、合同シンポジウムの開催に先立ち、令和6年(2024年)9月26、27日にかけてキングファハド石油鉱物資源大学学長を日本に招へいし、セミナーにおける基調講演をして頂くとともに、日本の大学との面談や石油学会やJCCPとの意見交換を実施し、今後の同シンポジウムの発展に向けた相互理解を深めました。


(キングファアド石油鉱物資源大学 学長)
【FCWフォーラム】
平成27年(2015年)、UAEと日本の石油関連業界の女性活躍推進と女性のキャリア開発を目的にFCW委員会 (Friendship Committee for Women Career Development) が設立されました。フォーラムはこの活動の一つとして、毎年UAEと日本で半期に1回ずつ情報交換の場として開催されています。
令和6年度は10月29日(火)、第19回FCWフォーラムを東京で開催いたしました。「女性のキャリア開発・-持続可能なエネルギー産業をデザインする-」をメインテーマとして120名ほどの参加がありました。
フォーラムでは、理事会メンバーであるUAE国務大臣H.E.Dr. Maitha AlShamsiご列席の下、ADNOC Executive Vice President, Downstream Business Management Ms. Fatema Al Nuaimiによるリーダースピーチ、株式会社チェンジウェーブグループ 取締役 酒井穣様によるインスパイアリング・トークが行なわれ、今こそ女性にとってチャンスのある時代であり、大きな変化の中でどのようにチャンスを活かしていくかを考えながら行動し、後に続く女性がよりフェアな状態で評価される社会を作っていただきたいとのお話がなされました。
ワークショップ発表は、「女性のキャリア開発-私たちはリーダーシップをどう発揮するか-」をテーマに、FCW協力日本企業と、UAE、サウジアラビア、オマーン、マレーシア(初参加)の各石油会社からの参加者が、3つのテーマ「DE&Iの課題と解決策/女性エンジニアのキャリア開発 /価値共創」に分かれて事前に討議を行い、各グループから出されたアイデアや提言について発表を行いました。
パネルディスカッションは、「女性のキャリア開発 -リーダー育成・メンタリング・エンジニア育成-」をテーマに実施しました。東京科学大学の野村淳子教授をモデレーターとし、経済産業省、日本、UAEの石油関連業界のリーダーが登壇し、各社夫々の取組みや、メンタリングを進めていく上での課題や事例などを共有し、勇気を持って一歩踏み出すことやネットワーク構築(特に女性エンジニア)の大切さ等を女性を含めた次世代リーダーに向けエールを送る内容となりました。


【FCW活動受賞】
設立から10年を迎えたFCW活動が、3月5日、働く女性を励ますNewsPicks for WE主催「WE CHANGE AWARD 2025 企業部門」を受賞しました。石油関連分野において、日本とUAEの国際間で女性リーダーを支援し、国際的な女性リーダー育成を推進している点、今後のサステナブルな社会構築にも寄与する人財を支援する点が評価されました。
海外事務所から
JCCPでは、サウジアラビアのアル・コバールとUAEのアブダビに海外事務所を配置しています。(アル・コバール事務所、中東事務所)
各事務所の中東担当国は、アル・コバール事務所がサウジアラビア・クウェート・イラク・バーレーン、中東事務所がUAE・カタール・オマーン・イランです。
海外事務所の主な業務としては、上記担当国における各事業をスムーズにかつ安全に実施すべく、現地での各種支援、情報収集などを行っています。
また、JCCP設立以来、中東産油・産ガス国の国営石油・ガス会社等と、人材育成事業、技術協力事業、及び連携促進事業を通して築いてきたネットワークを生かし、中東産油・産ガス国の石油・ガスダウンストリームに於いて日系企業・団体の事業展開の支援を行っています。
アル・コバール事務所
(サウジアラビアエネルギー省にて)
中東事務所